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2024-03

「表象」2012.06 特集ペルソナの詩学 月曜社 - 2012.05.29 Tue



特集ペルソナの詩学

森村泰昌+小林康夫 対談 白のゲームとして
ペルソナの隠喩 再論 岡本源太
能面のペルソノロジー和辻哲郎と坂部恵 横山太郎
不気味でないもの ラカン、ドゥールズ、メイヤースを介した自然哲学のスケッチ 千葉雅也
関係性の実在論 享楽の自存性としてのペルソナ 信友建志
装置としてのペルソナ ロベルト・エスポジト 多賀健太郎訳

が特集の欄に掲載されています。
この中の「能面のペルソノロジー和辻哲郎と坂部恵」の
タイトルに魅せられて読みました。

能面が今なお私たちの顏と人格の捉え方に対して新たに示唆することについて、
横山太郎氏が書かれています。

能面は、静止しているときには、生きた人格であることのしるしを
極限まで無に近付けた、その意味で死んだ顏である。
しかし役者に使用されると時間と運動と観客のまなざしのなかにおかれると
生き生きとした表情と、人格の全体性を回復する。

実際には役者が面をつけて動いているのではあるが、
しかしその効果から言えば面が肢体を獲得したのである。
どんな拙い役者でも、あるいは素人でも女の面をつければ
女になると言ってよい。それほど面の力は強いのである。

ペルソナの本来の語義は劇における仮面である。
それが劇における役、次いで社会における役割の意に転じ、
さらに己のなすべきことを行為とする主体としての「人格」の意となった。

わたしたちは自らの顏を所有し、コントロールしていると思っている。
そして他人には作り上げた仮面としての顏を差し向け、
素顔は自分だけのものとして隠し持っていると思っている。
しかし、和辻の言うように仮面こそが主体を所有するのだとしたら?
表層にある外向けの顏の深層に、
それとは異なった「本当の私」の人格などない。
人格とは、面が獲得する人格にほかならない。
社会の中での他人からのまなざしとのインターフェースとしての顏(ペルソナ)が、
そのまま人の人格(ペルソナ)なのだ。

和辻の能面論の背景として英文学者・能楽研究者の野上豊一郎の影響がある。
野上は能面の表現力は「能面の後に在る。それを懸けた頭の中に在る。」と述べる。
能面の持つ力は、役者次第だというのだ。ここには個人の心理に表現の根拠を求めている。
それに比べて、個人を飲み込む能面のフェティッシュな力を捉えたことは
和辻の独創的理解であった。

坂部のペルソナ論の基本構造も描かれている。

人格は、表層においては自己統一で相互排他的な意識の主体である。
一般にはこれを「素顔=本当の私」と考えがちである。
しかし、深層においては、人格は語源であるペルソナ=仮面と同じ構造を持つ。
それは、自分ではないものに憑依され、変身し、しかも仮面が付け替え可能であるように、
一つに固定されずに多様な存在へ置換可能である。
他者と移り合い変換し続けるこうした人格の深層こそが、
人格を生み出すポイエ―シスの次元である。

たとえば私が私であることの深層には、「私」の置換可能な項として
あなたやその他の人々や人間以外のものたちが無限に連なっている。
表層においては、私でありあなたであるような人格が個別にかたどられているとしても、
それらはこの無限に他者になる深層の次元から、
「なにかであること」の可能性を確保している。
そうであればこそ、個別の人間同士の間で、移り合い、響き合う関係が成立する。

要約するとこのようなことが述べられていました。

以前に読んだ「能楽への招待」は能楽者自身が著者です。
その中で、
内面と外部(型)との関係の設定をおこない
それによって生じる両者の和音や不協和音が
独特の身体的な場をつくりだし、「気配」となる。
と語られていました。

能面に私の人格が憑依されても
どうしても自我が能面から発生してしまう。
その不協和音が独特であり、「気配」となるのではと思いました。
その「気配」が能楽者の作り出す芸術なのかもと思いました。

「能楽への招待」には、能と禅の関係の記述もあり、
無への探求も書かれていたのですが、
演じる自分が無になり能面が作り出す人格に憑依される感覚が
大切であることを物語っていたのかもしれません。
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● COMMENT ●

社会とのインターフェースとしての、ペルソナ。
社会的な自分と、本当の自分(なんだそれは?)との葛藤について思うところがあったので、とても面白い記事でした!
安部公房『他人の顔』でも久しぶりに読んでみようかな…。

コメント、ありがとうございます。

人間は自分を変えるのは難しいと思いがちですが、本当の私は常に流動的で変わっているんだと考えると、
なんだかとっても自由な爽快感みたいなものがありました。
人生は自分探しの旅と言いますが、仮面探しの旅、仮面収集の旅くらいの気持ちで
自我にこだわらずに色んなものを吸収して仮面に乗っ取られてみたいな!
などと思いました。
安部公房『他人の顔』面白そうですね。読んでみます!


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特集ペルソナの詩学森村泰昌 小林康夫 対談 白のゲームとして再論 岡本源太能面のペルソノロジー和辻哲郎と坂部恵 横山太郎不気味でないもの ラカン、ドゥールズ、メイヤース

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