2017-03

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「ダンディズム」 生田耕作 著  中公文庫 - 2012.06.19 Tue



19世紀初頭イギリスのダンディとされたジョージ・ブランメルの生きざまに迫っています。
ダンディズムはお洒落さんでもなくナルシストでもないようです。
ダンディズムという道を極めることが真髄のようです。

ダンディズムは19世紀初め、イギリスの青年の間に流行したもので、
その影響はフランスにも及んだそうです。
ジョージ・ブランメルは、1796年から1810年に及ぶ長期間にわたり
イギリスのみならずヨーロッパ全体の流行界の王者として君臨することに
成功したらしいのです。

6歳のとき早くもブランメルは母のいちばん美しいスカートを裁ち
自分の上衣をつくることを計画。持って生まれた素養があったのですね。

スポーツは、激しい動作により衣服を乱す危険にさらされるので
ダンディと相容れないらしいです。なるほど。

ベッドフォード卿が自分の着ている服についてブランメルに意見を求めた時、
ベッドフォード卿の襟をつまみ上げ、憤慨をまじえた驚きの口調で
「ねえ、ベッドフォード君、こんなものをきみは服と呼ぶつもりかね?」
たった今、楽しんでいたお紅茶のカップをあやうく手から落としそうになりました。

あらゆる情念のうちでも恋愛感情は、ダンディが掲げる泰然自若の
理想をもっとも脅かすものであるそうです。
女性を寄せつけないことによりダンディの威信は保たれるのだそうです。
「恋するダンディ」とは矛盾した言葉の組み合わせに他ならないとのこと。
淋しがりやさんはダンディにはなれませんね。

ブランメルは平民の身であったのですが、
プリンス・オブ・ウエールズ、後のジョージ四世に強烈な好意をもたれ、
イギリス社交界で大貴族と対等に付き合ったそうです。
ブランメルはプリンス・オブ・ウエールズに第十騎兵隊へ配属を認められ、
それはほとんどの場合は、とくべつ家柄の高い貴族の子弟のためだけに
用意されていたものなのですが、ブランメルはこの異例の抜擢に
感動するふうにも見えなかったようです。
彼は涼しい顏で受け入れ、不遜の仮面、皮肉な受け答え、
冷たくけだるげな物腰が端麗な姿にみがきをかけ、18歳で大尉に昇進。


普通なら有頂天になるところをブランメルは
「いわば、無関心と、冷淡と、軽蔑をもって己の出世を耐え忍び」
という軍人としての職務にうといふりを装うのでした。
軍人稼業は彼を退屈させブランメルは約束された出世の途を投げ出し
一介の郷士としてとどまることを決意します。
未来のダンディ王として地位を築いていく事となったのです。
このときブランメルは21歳であります。
職業を持つことは、世俗の塵にまみれることであり、
ダンディの資格を放棄することにつながると考えていたらしいのです。

ブランメルは限られた財力のなかでイギリス貴族階級の若者たちと
対等に付き合うために賢明な手段に頼りました。
華美をねらうよりも独創的な贅沢で身のまわりをつつむことに努めたのです。
ブランメルが自らに課した粋の原則は中庸かつ知性的に統一されていること。
「詩人の域に達した」良質の贅沢が行きわたっている点で
他の追従を許さなかったらしいのですが、とりわけ注目を浴びたのは
洗練された服装であったのです。

同時代の紳士と変わりはなくむしろ地味な、古典的な服装。
ただ一般と異なるところは、このごくありきたりの服装を
ブランメルは完璧の域にまで高めることにより、
比類のないものに変えるすべを心得ていたこと。
着付けの儀式を仕終えるのにほぼ二時間を要した奇蹟のようなネクタイの結び方。

ブランメルの衣装哲学を端的に示す寸言があるそうです。

「街を歩いていて、人からあまりまじまじ見られるときは、きみの服装は凝りすぎているのだ」

言葉では自己顕示的攻撃性を発揮するブランメルが
服装においては中庸を第一に重んじました。
自分の置かれている境遇、持って生まれた素質を
最大限に生かす知的な才能にも恵まれていたのですね。

ブランメルは「見せる」こと、そのスノッブの唯一の関心事であることを
一生を捧げるに価する技術であることを宣言し、
彼とともに、スノビズムは恥ずべきものであることをやめた。
もはや彼は模倣せず、逆に刷新したのだ。
流行に従うどころか、それを支配したのである。
自らを高め、いわば一つの新しい感情に変化する、この自覚的な、
恣意的な誇張されたスノビズム、これこそダンディズムである。

と「ダンディ群像」の著者、J・ブーランジェは述べているらしいです。
こうしてブランメルは洗練された趣味の王国の絶対君主になったのだそうです。
ブランメルの魅力はたんなる外型の美しさにとどまらぬ
全人格的ものであったことが、数々の証言の一致して認めることらしいです。

顔立ちの端正さよりも表現をとおして輝き、
面立ちよりも美しいのは頭のもたげ様であり、
肉体の表情が容姿の完成に勝っていた。
そして、その賢げな眼はときどき軽蔑ぬきに無関心で凍りつくことを心得ていた。
完璧なダンディにふさわしく、自分の目にみえる世界よりも
自分のなかに所有しているものの方が勝っているという様に。
芸術家がその作品で認められるようにブランメルはその人格の芸術でもって認められた。
ということらしいのです。

沈着、ポーカー・フェイス、危険を内にひそめた表面の慇懃さ、
そうしたものをブランメルはなんぴとにも勝って持ち合わせている。
まるでブランメルは不愉快がられることを、ねらっているかのようで、
われわれの目には無礼の極みとしかうつらない。
それでいてブランメルが当時の人々の共感と畏敬を
一身に集めることに成功した秘訣とは、

彼は好かれるよりも驚かすほうを好み、それも度肝をぬくほどの。
どのあたりでとどまればよいのかを心得て、
畏怖と共鳴を完全に等しくなるように
その効果の魔術的媚薬を調合した。
毒舌が魅力とうつる人格の芸術なのですね。

本のタイトルの副題が「栄光と悲惨」となっていますが
ブランメルを破滅させたもの、それは戦後の猥雑な混乱だったようです。
一見折目正しいイギリス紳士の体内にはノルマン征服武人の野性的な血が
濃く脈うっていて飲酒癖と並んで広く行き亙っていたのが賭博の習慣。
日々の倦怠を賽の一擲の上に発散していたらしいのです。

それがもっとも盛んなのは高級貴族の集まりウォーティア倶楽部。
われらのダンディはこの倶楽部の花形であり終身会長に祭り上げられていたそうです。
ブランメルは高額を賭け、競争を強いられた。
彼の財産は消え去りましたが、ブランメルともあろうものが
不様な言いわけのもとに出費を制限するわけにいかないのです。
借財による敗退が待っていたのです。
沈着なブランメルにも野性的な血が濃く脈打っていたのですね。

英国貴族社会の風習や紳士服の歴史についても
ブランメルのダンディズムという生きざまを通して
知ることもできる内容となっています。

なにより、この本の著者の生田耕作氏が一番ダンディズムではないだろうか
と思わせる文体で書かれているところが魅力でありました。
とりわけ「後記」とタイトルのある、あとがきの文体はとってもクール。



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