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「遊戯の終わり」 コルタサル作 木村榮一訳  岩波文庫 - 2012.08.19 Sun

18篇を収録した短篇小説集。

Ⅲ章にある「山椒魚」を読む。

ぼくは山椒魚に取り憑かれていたことがある。
植物園にある水族館に出掛けて行っては、
何時間も山椒魚を眺め、
彼らがかすかに身動きしたり、
じっとうずくまっている様子を観察したものだ。
今では、そのぼくが山椒魚になっている。

冒頭の文章にそう書かれていた。

パリがのんびり冬眠から目を覚まし、
きらびやかな孔雀の羽根を広げようとしていた
春の朝に
ぼくはその山椒魚に出くわしたそうだ。

はじめて出くわしてから、
一時間ばかり彼らを眺めたあと外に出たが、
その時はもう山椒魚に取り憑かれていた。

毎朝そこへ通い、時には朝昼二回出かけて行く。
ぼくは山椒魚のまわりにめぐらしてある鉄柵にもたれて、
山椒魚を眺めることにしていた。
ぼくは押しピンの頭を思わせるふたつの目、
全体が透明な金で出来ている、何かを見つめる目。
ぼくの視線はその目に突きささり、金色の部分を突きぬけて、
透明で神秘的なその内部に吸いこまれていくように思われた。

はじめて山椒魚に出会った時、
彼らのいかにも平静な様子に惹かれて、
思わずぼくは身を乗り出した。
その時、彼ら山椒魚の秘めた意思、
つまり一切に無関心になりじっと
動かずいることによって、
時間と空間を無化しようとする
彼らの意志がおぼろげながら
理解できるように思えた。

彼らは鰓を収縮させたり、
石の上にほっそりした足をのせたり、
急に泳ぎ出したりするが、
後で分かったところでは、
そうすることによって何時間も眠り込んでいた
鉱物的な昏睡から目を覚ますのだ。

とりわけ強くぼくの心を捉えた彼らの目。
山椒魚の目は、ぼくたちとはまったく違った生活、
異なったものの見方があるのだとぼくに語りかけていた。
その金の目は穏やかではあるが恐ろしい光で燃えつづけ、
目眩くばかりに深い奥底からぼくを
じっと見つめていた。

ガラスにくっついてじっとしている山椒魚の顏を
ぼくは触れそうなほど近くから見つめた。
ぼくは水槽のガラスに押しつけらている自分の顏を見た。
その顔は水槽の外、ガラスの向こう側にあった。
山椒魚の体の中に生き埋めにされたらしいぼく。

ぼくの顏を撫でたそこにいた山椒魚の
考えていることはよくわかり、
山椒魚もぼくの考えを見抜いている。
ぼくたち山椒魚は人間と同じようにものを考えられるから。


水槽の外にいたぼくと
水槽の中にいるぼく。
時間を空間のように移動して
両方のぼくが物語の中で自由に動く。





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