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「仮面の解釈学 新装版」 坂部恵 著  - 2012.07.23 Mon

著者の坂部恵氏(1936-2009)に、
「風の通い路」と題された小論があるらしい。
小論の主題は「風」。

私たちは風を感じ、風に「ふれる」。
風にそよぐ草木を目にして、風を「見る」。
また気流の音に風を「聞く」。
花の匂いをはこぶ風を「嗅ぎわけ」、風の冷たさを「味わう」。
吹きすぎて、吹きさってゆき、めぐっては還ってくる風にふれるときに
私たちは「いのちの息吹」にすらふれているのだ。

風をめぐって夢みるように紡がれた一文。
夢も、そして風も坂部氏の思考の軌跡と深いかかわりをもち、
坂部氏がとらえようとしたものは、
現実とのさかいで、
現実と交じりあって織りあげられる、
さまざまな夢の痕跡である。
風のようにたしかに存在し、
私たちにふれていながら、
それをとらえようとすると、
私たちの手を、すり抜けていってしまうようなものたち、
そのさまざまな「現象(あらわれ)」でもあったからである、と。

この「仮面の解釈学 新装版」は1976年に出版された著書を、新装復刊したもの。
生と死、覚醒とまどろみ、現実と夢のあわいを問うている。
「おもて」と「うら」、「もの」とその「かげ」といった、
さまざまな極が交じりあう領域に、
思考がそこで紡ぎだされるべきありかを見さだめている。


「うつし身」というタイトルで坂部氏が述べられた文がある。
  秋くれば、常盤の山の松風も うつるばかりに身にぞしみける
『新古今和歌集』におさめられた和泉式部の歌を引き
「うつつ」という日本語について述べている。
日本古典文学大系は、頭注で
「常盤は不変のもの。変わる筈のない、常盤の山の、常盤の松に吹く風が、
秋更けるとともに変って聞え、悲しく身にしむ、の意」と付けている。
坂部氏は、
「うつるばかり」にの注解が「変わったかと思われる程に。」となっているが、
これだけではどうももうひとつ足りない、
極端にいえばこの歌の生命にかかわる部分が触れられないままで
残されているというようにおもうと述べている。

常盤の山の、常盤の松に吹く風が、時が移ろい、秋更けるとともに、
変ったのかと思われるほどに、あたかも色付いたかのように感じられ、
風の紅葉色が、わたしの身に映り、照り映え、やがて、そのつめたい悲しさが、
身に移り、身にしみ、身体のなかを吹き抜けて行く……

メルロ=ポンティ風にいえば、
わたしの身体を織りなすのとおなじ織り糸で織りなされた世界。
その過ぎ去り移り行く世界とわが身との
このような交感をあらわす意を含めたものとして
「うつるばかりに」の一句を読むことは、深読みにすぎるだろうか。
と坂部氏は語っている。

「うつつ」は時間的にみれば、たんなる「現在」ではなく、
すでにないものたちと、いまだないものたち、
来し方と行く末との関係との設定であると。
うつつは、たんなる現前ではなく、
そのうちにすでに、死と生、
不在と存在の移り行きをはらんでおり、
目に見えぬもの、かたちなきものが、目に見え、
かたちあるものに映るという幽明あいわたる境を
その成立の場としている。」



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